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東京地方裁判所 平成7年(ワ)22105号 判決

原告

知念俊昭

外一名

右原告両名訴訟代理人弁護士

黒田泰行

被告

株式会社ベストウイルホーム

右代表者代表取締役

二若純一

被告

二若純一

右被告両名訴訟代理人弁護士

岩崎公

被告

谷口教仁

外一名

右被告両名訴訟代理人弁護士

清水由規子

右被告両名訴訟復代理人弁護士

角田伸一

被告

株式会社ベストホーム

右代表者代表取締役

河村良平

被告

河村良平

外一名

右被告三名訴訟代理人弁護士

加藤猛

主文

一  各原告に対し、被告株式会社ベストウイルホームは、金一〇二一万円及びこれに対する平成七年一一月一六日から、被告二若純一は、金一〇七一万円及びこれに対する平成七年一一月一六日から、被告谷口教仁は、金一〇七一万円及びこれに対する平成七年一一月一六日から、被告三辻雅夫は、金一〇七一万円及びこれに対する平成七年一一月一八日から、被告株式会社ベストホームは、金一〇七一万円及びこれに対する平成七年一一月一七日から、被告河村良平は、金一〇七一万円及びこれに対する平成七年一一月一七日から、各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告らの被告株式会社ベストウイルホーム、被告二若純一、被告谷口教仁、被告三辻雅夫、被告株式会社ベストホーム及び被告河村良平に対するその余の請求及び被告生田文男に対する請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告らと被告株式会社ベストウイルホーム、被告二若純一、被告谷口教仁、被告三辻雅夫、被告株式会社ベストホーム及び被告河村良平との間においては、原告らに生じた費用の三分の二を右被告らの負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告生田文男との間においては、全部原告らの負担とする。

四  この判決は、原告ら勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

被告らは、各原告に対し、各自金一五九一万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(被告株式会社ベストウイルホーム、被告二若純一及び被告谷口教仁については、平成七年一一月一六日、被告三辻雅夫については同月一八日、被告株式会社ベストホーム、被告河村良平及び被告生田文男については同月一七日)から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  請求原因の要旨

原告両名は夫婦であり、被告株式会社ベストウイルホーム(以下「被告ウイルホーム」という。)との間で、平成七年五月二九日、自宅を建築するための工事請負契約(以下「本件請負契約」という。)を締結し、同会社に共同して着手金一〇四二万円、部材発注金一〇〇〇万円、合計二〇四二万円(以下「本件着手金等」という。)を支払ったものであるが、被告ウイルホームは、工事に着工することもなく業務を閉鎖してしまったので、本件着手金等、慰謝料及び本訴提起のための弁護士費用相当の損害を被ったとして、同会社に対して債務不履行による損害賠償を請求するとともに、被告ウイルホームは、本件請負契約締結当時、既に経営が悪化しており、本件請負契約に基づく工事を施工できる状態ではなかったのにもかかわらず本件請負契約を締結し、原告らから本件着手金等の支払を受けたので、被告二若純一(以下「被告二若」という。)は被告ウイルホームの代表取締役として、被告谷口教仁(以下「被告谷口」という。)及び被告三辻雅夫(以下「被告三辻」という。)は被告ウイルホームの事実上の経営者として、商法二六六条の三(被告谷口及び被告三辻は民法七〇九条も)により責任を負い、また、被告河村良平(以下「被告河村」という。)は被告ウイルホームの実質的経営者として、民法七〇九条又は商法二六六条の三により責任を負い、被告河村が代表取締役を務める被告株式会社ベストホーム(以下「被告ベストホーム」という。)は、被告河村の行為について商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項により責任を負い、被告ベストホームにおける被告河村の部下である被告生田文男(以下「被告生田」という。)は、被告河村の行為を幇助したものとして民法七〇九条により責任を負うと主張して、被告ウイルホーム以外の被告らに対しても、被告ウイルホームと同額の損害賠償を請求するものである。

原告らが主張する損害は、①財産的損害二〇四二万円(原告それぞれに一〇二一万円)、②慰謝料八〇〇万円(原告それぞれに四〇〇万円)、③弁護士費用三四〇万円(原告それぞれに一七〇万円)、以上合計三一八二万円(原告それぞれに一五九一万円)である。

第三  紛争の全容

1  原告知念俊昭(以下「原告俊昭」という。)と原告知念千賀子(以下「原告千賀子」という。)は夫婦であるが、平成六年三月に株式会社日経社サービス(以下「日経社」という。)が運営する東京都練馬区所在の「東京ハウジングフェア上石神井会場住宅展示場」(以下「本件展示場」という。)において、被告ウイルホームのモデル住宅及びパンフレットを見てから、保谷市に購入した土地の上に自宅を建築するについて、被告ウイルホーム(担当者は主として被告三辻)に相談するようになり、平成七年五月二九日、被告ウイルホームとの間で、左記の内容の工事請負契約(本件請負契約)を締結し、同月三〇日に前払金一〇四二万円を、同年七月二八日に部分払金一〇〇〇万円を支払った(甲一の一から六まで、五三、六一、六四の一、二、七九、八〇の一から三まで、八八、乙一〇)。

発注者 原告両名

請負者 被告ウイルホーム

工事名 知念邸新築工事

工事場所 東京都保谷市富士町〈番地略〉

工期 完成は平成七年一二月二五日

請負代金額 四五三二万円

うち、工事価格四四〇〇万円

消費税額 一三二万円

請負代金の支払

前払 契約成立の時に一〇四二万円

部分払 着工時一〇〇〇万円

公庫中間金融資時 一〇七四万円

完成引渡時 一四一六万円

構造 木造ツーバイフォー一部三階建コロニアル屋根葺造

延床面積236.37平方メートル

2  被告ウイルホームは、原告らが部分払金一〇〇〇万円を支払ってから一か月も経たないうちに事実上倒産状態となり、同年八月末には本件展示場のモデル住宅も閉鎖したので、被告ウイルホームは本件請負契約に基づく債務(原告らの自宅の建築)を履行できなくなっただけでなく、原告らから受領した合計二〇四二万円を原告らに返還することもできなくなり、原告らは同額の損害を被ることになった(甲一の七、八、一一、一二、甲一三、五三、七四、丁一二、被告谷口の供述及び弁論の全趣旨)。

3  被告ウイルホームの設立から事実上の倒産までの経営の推移は次のとおりである(甲一から一一まで(枝番のあるものは枝番を含む。以下同じ。)、五一、五二、二八から三五まで、五五、五六、六五、七二から七八まで、八四から八六まで、乙一から三〇まで、三四から四四まで、丙一から四まで、丁一二、証人田村まち子の証言、被告河村、同二若、同生田、同谷口の各供述及び弁論の全趣旨)。

(一)  被告河村と被告二若は、両名が名古屋市に本店を有する大栄住宅株式会社(以下「大栄住宅」という。)に勤務していたころ、被告河村が上司、被告二若が部下の関係にあった。被告河村と被告二若は、いずれも大栄住宅を退社し、被告河村は、昭和六一年一一月五日に、名古屋市を本店所在地とする住宅の建築会社である被告ベストホームを設立し、その代表取締役となり、被告二若は、平成二年六月二七日に、横浜市を本店所在地(後に東京都町田市に本店移転)とする住宅の建築会社である千代田住研株式会社(以下「千代田住研」という。)を設立し、その代表取締役となった。

(二)  被告河村と被告二若は、平成四年初めころ、被告ベストホームが請け負った静岡県伊東市の別荘建築について千代田住研が下請けをしたことから親交を結ぶようになり、同年九月ころには、被告河村と被告二若は、東京で、被告ベストホームが名古屋で建築しているような在来木造工法による住宅を建築、販売する事業を展開することに合意するに至った。そして、その事業には、被告二若の知人で建築会社に勤務していた被告三辻も加わることになった。この事業展開は、被告河村にとって、被告ベストホームの事業を東京に進出させる意義があった。

(三)  そして、平成五年二月二四日に被告ウイルホームが設立されたが、設立時の持ち株数は、左記のとおりであり、設立資金の大半は被告河村が支出した。

発行済株式総数 六〇〇株

被告河村 二〇〇株

河村喜久江(被告河村の妻)

一二〇株

面谷康晴(被告ベストホームの取締役) 九〇株

被告生田(被告ベストホームの取締役) 九〇株

被告二若 八〇株

被告三辻 二〇株

被告ウイルホームが事業展開するためには、展示場を賃借するとともに展示用のモデル住宅を建築する必要があったが、数千万円にのぼるその資金も、後記のとおり、被告河村又は被告河村の経営する被告ベストホームの子会社が支出する(被告ウイルホームに貸し付ける)ことになった。

その上で、被告ウイルホームの代表取締役には被告二若が、取締役には、被告二若のほか、被告三辻及び被告ベストホームの従業員である吉野治平が、監査役には被告二若の妻である二若秀美がそれぞれ就任し、当初、本店所在地を千代田住研の本店所在地と同じ東京都町田市としたが、平成五年八月一七日に現在の登記簿上の本店所在地である東京都練馬区に本店を移転した。

なお、被告二若は、被告ウイルホームの代表取締役の肩書のある名刺(乙四〇)を使用したが、被告三辻は、被告ウイルホームの専務取締役の肩書のある名刺(乙四一)と何も肩書のない名刺(甲七二)を使い分けていた。また、被告河村は、被告ウイルホームの相談役という肩書のある名刺(甲六五)を使用していた。

(四)  被告ウイルホームの従業員は、営業担当として千代田住研の取締役であった大戸秀一(以下「大戸」という。)及び八木順一(以下「八木」という。)、技術担当として伊藤伸一及び小松浩樹がいたが、伊藤伸一及び小松浩樹は平成五年八月に退社し、被告河村は、同月、技術担当者として被告ベストホームの従業員である岡田恵二(以下「岡田」という。)を被告ウイルホームに出向させた。その後、被告河村は、同年一一月には被告ベストホームの従業員として採用した田村まち子(以下「田村」という。)を被告ウイルホームに出向させたほか、大戸、八木について、被告ウイルホームを退社した後に被告ベストホームに雇用し、被告ウイルホームに出向させる形をとった。

(五)  被告河村と被告二若との間では、千代田住研は清算する約束になっていたが、被告二若は、被告ウイルホームの代表取締役に就任し、被告ウイルホームの本店を千代田住研の本店所在地から移転した後も、千代田住研の業務を継続していた。

(六)  被告ウイルホームは、平成五年三月一六日、日経社との間で本件展示場への出展契約(乙一〇)を締結したが、その契約に基づいて日経社に支払うべき参加金は六〇〇万円、出展料は一か月一九五万円であった。

また、被告ウイルホームは、被告ベストホームとの間で、平成五年八月三一日に出向契約(乙一二、以下「本件出向契約」という。)を、同年一二月三一日に業務提携に関する契約(乙一三、以下「本件業務提携契約」という。)を締結したが、本件出向契約によれば、被告ベストホームがその従業員を被告ウイルホームに出向させた場合、被告ウイルホームは被告ベストホームに一か月五二万円、年間六二四万円の出向料を支払う約束になっており、また、本件業務提携契約は、左記のような内容になっている。

(1) 被告ベストホームは、被告ウイルホームの本業である全般的活動を支援するために人材を派遣し、被告ウイルホームの展示場における受注、販売、契約活動とそれに伴う設計、施工の為必要な協力、支援を行うものとする。

(2) 被告ベストホームの支援業務は、営業、設計、工事、事務等全般に及び、被告ウイルホームが施主と建築工事請負契約を締結した場合、被告ウイルホームは被告ベストホームに(3)所定の報酬を支払うものとする。

(3) 被告ウイルホームが被告ベストホームに支払う報酬の額は次のとおりとする。

建築建物本体及び付帯工事の工事請負契約額(消費税は含まない)の一〇パーセント

(4) 報酬の支払は、毎月末日までの入金額に応じ計算し、契約及び着工金は入金月の翌月二〇日、上棟金については、残金全額を翌月二〇日に被告ベストホーム指定口座に支払うものとする。

なお、被告ベストホームは、平成六年四月一〇日に被告ウイルホームと原善との間で締結された原邸新築工事請負契約(甲五一)においては、被告ウイルホームの保証人にもなっている。

(七)  被告河村は、被告ベストホームのほかに、建築用材料の販売等を目的とする被告ベストホームの子会社であるビーワン・コーポレーション株式会社(以下「ビーワン」という。)も経営していたが、被告ウイルホームは、平成五年六月三〇日、ビーワンとの間で、ビーワンから賃料月額一五万円でCAD(コンピュータ援用設計装置)を賃借する旨の契約(乙一一)を締結した。

(八)  被告ウイルホームは、設立当初から、その運転資金を被告河村に全面的に依存しており、被告河村及びビーワンは、次のとおり被告ウイルホームに運転資金やモデル住宅の建築資金等を貸し付けた。

(1) 被告河村

平成五年六月一八日 九〇〇万円

同年七月二〇日 五〇〇万円

同年八月一九日 四〇〇万円

同年九月二〇日 四〇〇万円

平成六年七月二五日 二五〇万円

同年八月一日 二三〇万円

同年八月一九日 四五〇万円

(2) ビーワン

平成五年五月一九日 七〇〇万円

同年八月一九日 三〇〇万円

同年一一月二六日 一五〇〇万円

右貸付金については、返済されたものもあり、被告ウイルホームが事実上倒産した時点では、被告河村の貸付金が二六五〇万円、ビーワンの貸付金が一七四万三七五三円残っていた(甲一三、八二、乙四四)。

なお、被告ウイルホームは、平成六年六月二七日に被告三辻の父親である三辻実から一五四三万七六七一円を借り入れている(甲七八の二)が、この借入金は、そのまま前記ビーワンの一五〇〇万円の貸付金の返済に充てられている(甲七八の一)。これは、後記の角田医院等工事請負契約に関して生じた負債の処理のために被告ウイルホームがビーワンから借り入れた金員の返済について、被告三辻が個人的に責任を負担する形になったものである。

(九)  被告ウイルホームは、平成五年四月二三日に角田茂との間で請負代金額三八〇〇万円の角田整形外科医院改築工事の請負契約(乙一四)を、同年七月二一日に角田徹との間で請負代金四二〇九万円の角田医院改装工事の請負契約(乙一五)を、同日、角田満との間で請負代金三三〇万円の角田歯科医院改装工事の請負契約(乙一六)を、それぞれ締結した(以下併せて「角田医院等工事請負契約」という。)が、被告ウイルホームと注文者との間で、工事遅延、工事中の医療機器の破損等のトラブルが発生し、注文者から契約違反を主張されて約三〇〇〇万円の工事未収金が発生することになった。そのために二〇〇〇万円以上の原価割れとなり、下請業者等に対する支払ができなくなった。

この角田医院等工事請負契約に関する問題の処理を巡って、平成五年八月末ころから、被告河村は、被告二若と被告三辻に対して、被告ウイルホームに損害を発生させた責任を追及しはじめ、被告二若に対しては、更に、約束に反して千代田住研の清算をせず、被告ウイルホームの業務と千代田住研の業務を混同し、被告三辻や大戸、八木らに千代田住研の仕事をさせたことについても厳しく責任を追及した。

そこで、被告二若は、平成五年一一月ころには、被告ウイルホームの経営から手を引くことを考え始め、大栄住宅に勤務していたころの上司であった被告谷口に被告ウイルホームの仕事を手伝って欲しいという話を持ち込み、被告谷口を被告河村に紹介した。被告河村は、被告谷口に対して、金の面倒は見るから被告ウイルホームの面倒を見て欲しいと依頼し、被告谷口は、被告二若が角田医院等工事請負契約に関する工事未収金や未払金の後始末をした後に被告二若に代わって被告ウイルホームの代表取締役に就任するという含みで、平成六年二月、被告ウイルホームの取締役に就任することを承諾した。

(一〇)  そして、被告二若と被告三辻は、被告河村に対して、平成五年一二月三一日付けで、被告河村の用意した左記のような内容の念書(丙二、以下「本件念書一」という。)を差し入れた。

(1) 被告二若と被告三辻は、被告ウイルホーム設立準備中及び設立後において被告河村に示した計画書及び報告書において重大な過ちとその実行において不履行があったことを認め、現段階において被告河村及び被告ウイルホームに多大な損失と負債を生じさせたことを確認する。

(2) (1)の重大な誤ちとは、主に①本件展示場のモデル住宅建築に関し、当初予定額をはるかに越えた支払をさせたこと、②角田医院等工事請負契約に関し未収金を発生させる等の重大過失を生じさせたこと、③千代田住研の整理を遅らせ、今だ明確な姿勢を示さず、職務に専任せず、背信行為となるべき事実があった等である。

(3) (2)②において生じている損害については、被告二若及び被告三辻の私的負債として、債権者と話し合い解決する。今後一切被告ウイルホームはその責を負わない。(2)③に関しては、今までの実行範囲内において役員報酬の明確な清算を行うこと。また、今後は被告河村の了承のもとに早期に整理清算する。一応の期限としては、平成六年一月末日とする。

(4) 損害と負債の早期返済の手段として、その返済が終了するまで一時的措置として、被告河村は、被告二若及び被告三辻が被告ウイルホームの受注をなした時は、会社規定により販売報酬金を支給し、その用に足すことを認める。

(5) 被告二若及び被告三辻は、被告ウイルホームを正常に機能、活動させるべく最大の努力をする。万一、被告ウイルホームが、不慮の事態に陥るようなことになれば、その損害及び負債は私的に負い、その履行を私的に行うことを確約する。また、被告二若及び被告三辻は、その役職を自ら辞することはないことを誓い、それに反する場合は、何ら損害賠償等の要求に対し異議を唱えることができないことを確約する。

(6) 被告河村は、今後とも、被告二若、被告三辻及び被告ウイルホームに対し適切な指示、指導を行い、被告ウイルホームの健全な経営に対し協力することを確認する。

(一一)  被告二若及び被告三辻は、本件念書以外にも、被告河村の用意した左記のような念書(以下併せて「本件念書二」という。)を作成し、被告河村に差し入れている。

(1) 作成者 被告ウイルホーム、被告二若及び被告三辻

作成日付 平成六年二月四日

内容 被告二若及び被告三辻は、角田医院等工事請負契約に関する工事未払金の合計額が二六〇九万四八〇七円であることを確認し、各業者に対して被告ウイルホームに対する債権を棚上げさせ、被告ウイルホームに対する債権の放棄を認めさせるとともに、その処理を自己の責任において行うことを約束する。

被告二若及び被告三辻は、被告ウイルホームに右債務が生じた場合は、その債務全額を被告ウイルホームに対し個人補償し、連帯債務を負うことを約束する(乙三八)。

(2) 作成者 被告河村及び被告二若

作成日付 平成六年二月四日

内容 被告二若は、被告河村が被告ウイルホームの筆頭株主であることを認め、被告河村が被告二若以外の株主よりその株主の権利行使を委任されていることを認める。

被告二若は、被告河村に対し、被告二若が被告ウイルホームの代表取締役の役にあり、その役割を正規になすことができなかった責を認め、被告河村が定める第三者に被告二若の持株八〇株の無償譲渡を認め、それにかかる書面に記名、押印することを約束する(丙三)。

(3) 作成者 被告ウイルホーム、被告二若及び千代田住研(ただし、千代田住研の記名、押印なし)

作成日付 平成六年二月四日

内容 被告ウイルホーム及び被告二若は、平成六年一月七、八、二二日に被告ウイルホームの将来の運営について十分な話し合いを行い、確認すべきことをなし、次の合意をした。

① 千代田住研の被告ウイルホームに対する立替金の返金は、当面実行しない約束であったのに、被告二若は、その約束に反して被告ウイルホームから千代田住研への返金処理をしたことを認める。

② 被告二若が被告ウイルホームから受け取った役員報酬の一部一〇〇万円を、千代田住研の仕事に費やした割合と認めて被告ウイルホームに返金する。

③ 被告二若は、被告三辻、大戸、八木が、被告二若の指示により千代田住研の仕事をしたことを認め、被告三辻らが受け取った役員報酬あるいは給料の一部を被告ウイルホームに返金する。

④ 千代田住研は、被告二若と連帯して被告ウイルホームに返金する。

⑤ 被告二若及び千代田住研が被告ウイルホームに返金すべき金額は、合計二一五万円であり、同被告らは、年五パーセントの利息を付して平成八年一二月二〇日までに右金員を弁済する。

(一二)  被告谷口は、平成六年二月四日ころ、被告二若から被告ウイルホームの株式八〇株の譲渡を受け、その代金相当額四〇〇万円を被告ウイルホームに交付した(本件念書一、二に基づき、株式の代金は、被告二若ではなく、被告ウイルホームに交付された。)。

平成六年二月二三日に被告ウイルホームの株主総会及び取締役会が開催され、被告谷口が取締役に加わり、監査役が二若秀美から三辻実に交替した。そして、被告二若は、本件念書一に従い、代表取締役の地位にとどまることになった。

しかし、被告二若は、以後、実質的には被告ウイルホームの経営には関与しなくなり、役員報酬の支払も受けず、被告ウイルホームが事実上倒産するまで、一か月又は二か月に一回程度被告ウイルホームの事務所に顔を出す程度になった。そして、被告ウイルホームの経営は、被告ウイルホームが事実上倒産するまで、被告谷口が中心になって行うようになった。

被告谷口は、被告ウイルホームの代表取締役という肩書のある名刺(乙四二)と営業部長という肩書のある名刺(甲七三)を使い分けていた。

このようなことから、被告ウイルホームは、被告谷口が事実上の代表取締役となって経営されることになったが、工事請負契約等、被告ウイルホームが法律的に責任を負うことになる行為をするときは、被告ウイルホームの代表取締役は被告二若であるとしてこれを行い、原告らとの間の本件請負契約(甲七九)においても、被告ウイルホームの代表取締役は被告二若と表示されている。

(一三)  被告河村は、角田医院等工事請負契約に関する問題の処理を巡って、被告二若と被告三辻の責任を追及していた平成五年一一月、被告ベストホームの経理を担当していた木田きよ子の姉で、当時夫と別居して東京で暮らしていた田村を被告ウイルホームの経理を担当させるために被告ベストホームの従業員として採用した。

田村は、平成五年一一月末から被告ベストホームからの出向という形で被告ウイルホームの経理を担当するようになり、監査役であり、被告ウイルホームの経理を担当していた被告二若の妻二若秀美から仕事を引き継いだ。そして、被告河村は、田村に、仕事のことは何でもすべて被告河村に電話をして指示を受けるように命じるとともに、金庫の鍵、預金通帳、被告ウイルホームの代表者印、代表者の記名印、現金は田村が管理するように命じた。平成六年二月、被告谷口が中心になって被告ウイルホームの経営を行うようになって、代表者印及び代表者の記名印は被告谷口が保管するようになったが、それ以外のものは従前どおり、田村が管理していた。

田村は、自分が作成したものも、被告谷口が作成したものも、被告ウイルホームの事業内容を示す書類や経理関係の書類はすべて被告河村に送付するとともに、被告谷口や被告三辻を含む被告ウイルホームの職員の週間行動予定表も被告河村に送付していた。

被告谷口が被告ウイルホームを経営することになってから、被告河村は、前記のとおり、大戸及び八木を被告ベストホームの従業員にして、被告ウイルホームに出向させる形にした。

(一四)  被告河村は、平成五年秋以降、毎月上京して被告ウイルホームの経営について、被告二若及び被告三辻の責任を追及したり、経営方針の指示をしたりしており、被告谷口が被告ウイルホームを経営するようになってからもそれは変わらなかったが、平成六年夏頃、被告河村と田村に肉体関係があることが被告河村の妻に発覚し、以後、被告河村は上京しにくい状況になった。そのころから、被告河村は、田村に被告ベストホームを退社することを求めるようになった。

田村は、平成六年九月、ひったくりに遭い、被告ウイルホームの金庫の鍵なども盗まれたが、その際、被告河村は、被告ウイルホーム(被告谷口)に対して、同月四日付けの指示書(甲五二)を送付し、①損害、実費は本人負担とする、②実費一万一九〇〇円は一応被告ウイルホームで支払うことを認める、③その返済は二〜三か月の間に田村から現金で被告ウイルホームに返済させる、④他の責は今回一切問わない、との指示をした。

被告河村は、平成六年九月二三日付けのファクシミリ(甲七)で、被告谷口ほかの被告ウイルホームの従業員に対して、①名古屋本体が決算月ということもあり、被告河村は上京できない、②なかなか朗報がないので連絡がないのだと思うが、報告、連絡、相談が仕事上一番大切と心得て名古屋ともっともっとコミュニケーションができる方法を練ってもらいたい、③営業が第一である。月最低二棟が被告ウイルホームのノルマであり、皆の食い扶持の原資なので全員協力して必ず達成してもらいたい、との連絡をした。

その後、田村は、被告河村の意向を受けて、平成六年一〇月末で被告ベストホームを退社し、同年一一月、被告河村の身元保証書(甲五八)を提出して、医療法人入間川病院に就職(看護補助)した。しかし、田村は、平成六年一一月以降、右病院に勤務しながら、アルバイトとして被告ウイルホームに雇用され、毎週一回被告ウイルホームに出社して経理を担当することになり、そのような勤務は、被告ウイルホームが事実上倒産するまで継続した。

(一五)  被告生田は、前記のとおり、被告ベストホームの取締役であり、被告ウイルホームの株式を九〇株有するものであるが、取締役技術監理部長社長室一級建築士という肩書の名刺(甲七七)を使用していた。

被告ウイルホームには設計の技術者がいなかったので、被告河村は、設計技術者として岡田を被告ウイルホームに出向させていたが、平成六年一一月末で岡田の出向を解いた。そして、自らは上京することなく、それまでも被告河村とともに上京して被告ウイルホームに技術的な指導をしていた被告生田を、単独で定期的に、被告ウイルホームに派遣するようになった(被告生田の上京の日、期間は、①平成六年一二月一六日から一八日まで、②同月二七日、③平成七年一月二七、二八日、④同年二月二四日から二六日まで、⑤同年三月一七日から一九日まで、⑥同年四月二日、⑦同年五月一三日、一四日、⑧同年六月一〇日、⑨同年七月日付不明、である。)。

被告生田は、一級建築士であり、設計について被告ウイルホームの顧客の相談に応じ、設計図を作成するほか、見積書の内容の確認、工事現場の指導等も行った。しかし、被告生田は、被告ウイルホームの経営に実質的に関与することはなかった。

被告谷口は、それまでは上京した被告河村に経営について相談していたが、被告河村が上京しなくなってからは、被告生田に経営状況の報告をし、被告生田から被告河村に報告をしてもらうことになった。被告生田は、被告谷口からの経営状況の報告を被告河村に伝えており、原告らとの間の本件請負契約の成立も被告河村に伝えた。

田村は、被告ウイルホームにアルバイトとして雇用されるようになってからも、被告ウイルホームの事業内容を示す書類や経理関係の書類を被告河村あて又は被告生田あてに送付しており、本件請負契約に基づく原告らからの入金予定も、平成七年三月三〇日付けのファクシミリ(甲一一)で被告河村及び被告生田あてに送信した。

(一六)  被告ウイルホームの経営状態は、次のとおりであった。

(1) 第一期(平成五年二月二四日から同年一二月三一日まで)

モデル住宅建築の費用が嵩んだことや角田医院等工事請負契約に関する未収入金が生じたことなどから、当期未処理損失は八二三二万六二〇五円にも及んだ(乙二〇)。

(2) 第二期(平成六年一月一日から同年一二月三一日まで)

被告谷口は、平成六年五月一六日付けで、平成六、七年度の受注計画表(乙三四)を被告河村に提出し、右計画表では、毎月一棟又は二棟の受注を受ける予定になっていたが、実際には、受注はまったく伸びず、被告河村が平成六年九月二三日付けのファクシミリ(甲七)で指示した月最低二棟の受注には遠く及ばなかったため、当期未処理損失は第一期よりもさらに増加し、一億一五八二万二六八〇円になった(乙二一)。

(3) 第三期(平成七年一月一日から事実上倒産した同年八月末日まで)

平成七年に入ってからも、受注はまったく伸びず、事実上の倒産時までに請負契約が成立したのは、原告らとの間の本件請負契約のみであった。

そして、結局、田村が被告ベストホームに就職をした平成五年一一月から被告ウイルホームが事実上倒産した平成七年八月までの間に被告ウイルホームが受注したのは、わずかに五件にすぎなかった。

被告谷口は、平成七年一月の阪神・淡路大震災によって在来工法の家は受注交渉が減ったので、地震に強いといわれるツーバイフォー工法の住宅の受注をとることを被告河村に相談し、被告河村は、消極的ではあったがこれを黙認することとし、その結果、ツーバイフォー工法による本件請負契約が締結されるに至ったものであった。

被告ウイルホームは、平成七年に入っても受注がないため、下請業者等に対する支払ができないのはもちろんのこと、平成七年二月以降、日経社に対する出展料も支払えない状態にあり、日経社との間で、八月三一日から割賦弁済する旨の約束をした。

(一七)  原告らは、被告ウイルホームの受注が少ないことは感じていたが、被告ウイルホームは名古屋に本社のある会社であるという被告三辻の説明や、被告三辻が平成六年七月に原告千賀子に被告河村を「名古屋の社長です」と言って紹介したこと、本件展示場のモデル住宅には被告ベストホームのパンフレットが大量に置かれていたことなどから、被告ベストホームが被告ウイルホームの本社であり、被告ベストホームから資金が出ているので安心だと考えて本件請負契約を締結したものであった。

しかし、原告らが本件請負契約を締結した平成七年五月二九日には、被告ウイルホームは、極めて逼迫した状態にあり、原告らからの入金を原告らの自宅建築のために使用できるような状態にはまったくなかった。

それにもかかわらず、被告ウイルホームは、原告らから同月三〇日に前払金一〇四二万円、同年七月二八日に部分払金一〇〇〇万円の支払を受けた。右一〇〇〇万円の支払については、被告三辻は、原告千賀子に対して、輸入部材発注の必要があるからと言ってその支払を求めたが、実際には、直ちに他の支払に回され、輸入部材は発注されなかった(甲五)。

被告三辻は、平成七年八月五日、本件請負契約を成立させた販売報奨金として被告ウイルホームから一一万五〇〇〇円の支払を受けた(甲六〇)が、これは、本件念書一に基づくものであり、被告河村がその支払を承諾したために支払われたものであった。

(一八)  被告谷口と被告三辻は、平成七年八月になって、名古屋に被告河村を訪ね、被告ウイルホームの経営について相談した。被告ウイルホームは、平成六年七月五日、角田医院等工事請負契約に関して、下請業者である建成システム株式会社との間で債務弁済公正証書(乙一九)を作成しており(この公正証書作成のための交渉は被告二若と被告谷口が行い、被告二若を被告ウイルホームの代表取締役として公正証書が作成されている。)、右公正証書にしたがった弁済(平成七年八月当時は毎月一〇〇万円の弁済)ができないと、本件展示場のモデル住宅を差し押さえられ、被告ウイルホームの事業はその時点で不可能となってしまうおそれがあるので、被告谷口は、被告河村に資金援助を要請したが、被告河村は支援を拒絶したので、被告谷口は、混乱を避けるため日経社にモデル住宅の閉鎖を依頼し、被告ウイルホームは事実上倒産した。

第四  争点(被告らの責任)

1  被告ウイルホームの責任

(一)  原告らの主張(債務不履行責任)

本件請負契約の履行不能による損害賠償責任がある。

(二)  被告ウイルホームの主張

被告ウイルホームが本件請負契約に基づき原告らに二〇四二万円を返済する義務があることは認めるが、被告ウイルホームは、原告らから右金員を騙取したものではないので、その余の義務は争う。

2  被告二若の責任

(一)  原告らの主張(商法二六六条の三に基づく責任)

被告二若は、被告ウイルホームの代表取締役として登記され、被告ウイルホームを運営していた。したがって、被告二若には、被告ウイルホームの代表取締役としての責任がある。また、被告二若は、被告ウイルホームに出社しなくなったからといって、取締役としての責任を免れることはできず、自らが取締役を外れるための手段を講じ、運営を引き継ぐべき義務があった。被告二若が被告ウイルホームの経営から手を引くにあたって、被告ウイルホームの以後の運営について適切な措置をとらなかったために、後記のとおり、被告谷口及び被告三辻が被告二若を被告ウイルホームの代表取締役として本件請負契約を締結し、原告らに損害を与えることになったものであるから、被告二若は、商法二六六条の三により、原告らの損害を賠償すべき責任がある。

(二)  被告二若の主張

平成六年二月二三日の株主総会及び取締役会では、被告ウイルホームの代表取締役を被告二若から被告谷口に交替することが決まり、被告二若は、取締役の登記抹消に必要な書類を被告河村に交付したが、角田医院等工事請負契約に関して、下請業者への代金支払が未済であったので、登記簿上取締役兼代表取締役として名義を残すことになった。しかし、被告二若は、同年三月中頃以降は被告ウイルホームには出社せず、下請業者との間の支払関係の解決に努め、平成六年八月二日、建成システム株式会社との間で債務弁済契約公正証書を作成したので、この事実を被告河村に報告し、被告二若の取締役登記の抹消を依頼した。以後、被告ウイルホームの代表取締役は名実ともに被告谷口になった。

したがって、被告二若は、本件請負契約については一切関与していないし、取締役退任の登記を故意又は過失により放置したものでもないので、原告らに対して商法二六六条の三の責任を負うことはない。

3  被告谷口及び被告三辻の責任

(一)  原告らの主張(民法七〇九条、商法二六六条の三に基づく責任)

被告谷口は、平成六年二月二三日に被告二若から被告ウイルホームの経営を引き継ぎ、被告河村から命令を受けながら、事実上の代表取締役として被告ウイルホームの業務を執行してきた。被告三辻も、取締役として、被告谷口と共同して被告ウイルホームの業務を執行してきた。

被告ウイルホームは、赤字経営、受注不良、自転車操業で、平成七年二月からは日経社に対する出展料の滞納も発生していて、経営状態の回復の見込みも立たなかったのに、被告谷口及び被告三辻は、本件請負契約を締結し、原告らから平成六年五月三〇日に前払金一〇四二万円、同年七月二八日に部分払金一〇〇〇万円の支払を受け、直ちに下請業者等の支払や自らの給料などに充当した。

被告ウイルホームは、原告らからの支払を受けないと直ちに倒産する危険があったものであるが、被告谷口及び被告三辻は、業者からの追及をおそれ、原告らに回復不能の損害を与えたものであるから、民法七〇九条により、原告らの被った損害を賠償する責任を負う。

また、被告谷口は、事実上の代表取締役として、被告三辻は取締役として、原告らに対し、商法二六六条の三に基づく責任を負う。

(二)  被告谷口及び被告三辻の主張

本件請負契約締結時においても、部分払金一〇〇〇万円の支払を受けた時においても、被告ウイルホームには、必要資金調達の見込みがあった。

すなわち、①山本英美(以下「山本」という。)との契約が平成七年八月二五日成立の見込みであり、同日契約金一〇〇〇万円の入金が見込まれており、②今関忠(以下「今関」という。)との契約が同じく平成七年八月二五日成立の見込みであり、同日請負代金の一部三〇〇万円の入金が予定されており、③被告谷口は、中村弘一郎(以下「中村」という。)に五〇〇万円の貸金債権を有し、八月末までにその返還を受けられる見込みであった。

さらに、平成八年九月以降の資金調達についても、左記の見込客を有し、そのうちには八月末までに契約の成立、入金の見込めるものもあり、八月の資金調達を乗り切れば、事業の継続はもちろん、九月以降はむしろ明るい展望がある状況にあった。

(1) 風戸将光邸 総額一億二二四〇万円 八月一五日に本見積書提出

(2) 茂村幹彦邸 総額四五二六万一六九一円 打ち合わせ中

(3) 赤沢達也邸 総額四五〇〇万円実行の詰め段階

(4) 佐藤邸 総額三〇〇〇万円 八月末に古家解体予定

(5) 中石昭夫邸 総額三〇〇〇万円八月二一日にプラン提示

(6) 大塚邸 総額三三九万円 七月に測量完了し、打ち合わせ中

(7) 加藤重樹邸 総額二〇〇〇万円八月一四日にプラン、見積提示

ところが、山本との契約が、山本の方向占いの結果延期されるに至り、突如資金繰りに狂いが生じた。そのため、被告谷口は中村に五〇〇万円の返還を求めたが、銀行融資が即座に実行にならず、被告ウイルホームは窮地に陥った。そこで、被告河村に救援を求めたが、支援を得られず、被告ウイルホームは事実上倒産することになった。

このように、被告谷口及び被告三辻には、原告らの損害について、悪意も重過失もない。

4  被告ベストホーム、被告河村及び被告生田の責任

(一)  原告らの主張(被告河村に対しては民法七〇九条、商法二六六条の三に基づく責任、被告ベストホームに対しては商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項に基づく責任、被告生田に対しては民法七〇九条に基づく責任)

(被告河村について)

被告河村は、被告ウイルホームの設立時から資金を拠出し、被告二若に対し、株主の立場を超えて実質的経営者として振る舞い、被告二若が被告ウイルホームに出社せず、被告ウイルホームの経営責任を負担する者が被告河村以外には存在しない状態になった平成六年三月からも、従業員の行動を把握し、資金繰りの報告を受け、金庫の鍵や現金の保管を被告河村と情を通じていた田村によって行い、被告ウイルホームの支払につき決済を与え、相談役の名刺をもって、名古屋の本社の社長として振る舞っていたもので、自他ともに許す被告ウイルホームの事実上の代表取締役(実質的経営者)であった。そして、被告谷口は、被告河村に従属する立場にあった。

被告ウイルホームは、第一期において八二三二万円、第二期において一億一五八二万円の損失を計上するような経営状態であり、しかも、受注は、被告ウイルホーム設立時から事実上の倒産時まで二年六か月で八件しかないという状況であった。したがって、被告ウイルホームは、平成六年八月には既に資金が詰まってしまい、以後は、資金的な回復がないまま、当月分入金で当月の支払に充当するいわば自転車操業の状態にあった。そして、平成七年二月からは、月額二〇〇万円の出展料の支払も遅滞するようになっていた。

本件展示場のモデル住宅において配布していたパンフレットによると、被告ウイルホームの顧客勧誘方法は、顧客に被告ベストホームを被告ウイルホームの本社と信頼させる形態をとっており、被告谷口及び被告三辻も、取締役の肩書なしの名刺を顧客に示し、被告河村を「名古屋の社長です」と紹介するなど、被告ベストホームが本社であり、被告河村が本社の社長であるかのように振る舞っていた。

被告河村は、被告ウイルホームが早晩支払不能に陥って、被告ウイルホームと取引する、それも被告ベストホームが本社だと信じて取引する顧客に損害を及ぼすであろうことは容易に予想できたにもかかわらず、被告谷口や被告三辻に対し、被告ウイルホームの整理を指示せず、本件請負契約の締結及び原告らからの二〇四二万円の支払の受領を容認し、被告谷口及び被告三辻の支援要請を拒否することによって、被告ウイルホームを事実上の倒産に至らせ、原告らに損害を与えたものであるから、民法七〇九条により、原告らの被った損害を賠償する責任を負う。

また、被告河村は、事実上の代表取締役として、原告らに対し、商法二六六条の三(類推適用)に基づく責任を負う。

(被告ベストホームについて)

被告ウイルホームは、被告ベストホームの東京進出の出店の性格を有するものであり、被告谷口及び被告三辻以外の被告ウイルホームの従業員は、すべて被告ベストホームからの出向社員であった。右出向社員の人件費についても、被告ベストホームの経費としてまかない、被告ウイルホームに利益が出れば、その経費の負担を求めることになっていた。そして、被告ウイルホームの顧客に対しても、被告ベストホームが被告ウイルホームの本社であると認識させていた。

このような被告ベストホームと被告ウイルホームとの関係の中で、被告ベストホームの代表取締役である被告河村が前記のような不法行為により原告らに損害を加えたものであるから、被告河村の不法行為は被告ベストホームの職務に関するものというべきであり、被告ベストホームは、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項により、原告らに対し、その損害を賠償する責任を負う。

(被告生田について)

被告生田は、被告河村の窓口、手足として、被告河村の不法行為を支え、幇助したものであるから、民法七〇九条により、原告らの損害を賠償する責任を負う。

(二)  被告ベストホーム、被告河村及び被告生田の主張

被告ウイルホームは、被告二若及び被告三辻の発意と強い希望により設立されたものであり、被告河村は、「金は出すが口は出さない」ことにしていた。その後、角田医院等工事請負契約に関するトラブルが発生し、その内容が、被告ウイルホームの経営の継続に深刻な打撃を与えるものであり、そのトラブルの発生原因が、被告二若が被告河村との約束に反して千代田住研の仕事を行い、被告ウイルホームの代表取締役の任務に専念しなかったことにあったため、やむなく被告河村は被告ウイルホームの経営に関する助言、指導を開始したが、被告谷口が平成六年二月二三日に被告ウイルホームの取締役に就任してからは、被告谷口が被告ウイルホームの事実上の代表取締役として被告ウイルホームの経営にあたり、被告河村に対する報告も、取締役就任当初はしていたが、後にはほとんどしなくなり、自らの判断で被告河村の反対するツーバイフォー工法による事業展開に傾倒していったものである。

被告河村は、平成六年八月頃から被告ウイルホームの経営等に関する助言、指導等を中止しはじめ、同年一一月末日以降、被告ウイルホームの経営等に関して一切の関与をしなくなった。そして、被告河村が被告ウイルホームに対する助言、指導を中止しはじめた平成六年八月頃には、被告谷口は、月平均1.5棟の受注が見込めるとの見通しを被告河村に示していたのであるから、被告河村は被告ウイルホームの倒産など考えたこともなかったし、予見できることでもなかった。

原告らは、被告河村が被告谷口及び被告三辻の支援要請を拒否したために被告ウイルホームが事実上倒産するに至った旨主張するが、被告ウイルホームの倒産の原因は、そのような一過性のことにあるのではなく、被告谷口及び被告三辻が受注獲得のための営業活動、営業努力を蔑ろにしたために、受注が決定的に不足したことにある。

なお、被告ベストホームのパンフレットで被告ベストホームの本店所在地を本社と表示したのは、神宮東中日ハウジングセンターや岡崎中日ハウジングセンターにある被告ベストホームの展示場に対比して本社と表示しているものであり、被告ウイルホームに対比して本社と表示しているものではない。

第五  争点に対する法律判断(第三で認定した事実を前提とする)

1  被告ウイルホームの責任について

被告ウイルホームが本件請負契約に基づき、原告らから交付を受けた二〇四二万円の返還義務があることは被告ウイルホームも認めるところであり、第三で認定した事実によれば、被告ウイルホームは、履行不能による損害賠償として、原告らに対し、右金額(原告それぞれに一〇二一万円ずつ)の支払義務があることが認められる。

しかし、原告ら主張の慰謝料及び弁護士費用については、被告ウイルホームに対して契約責任を追及するものである以上、これを認めることはできない。

2  被告二若の責任について

被告二若は、被告ウイルホームが設立されてから現在まで、登記簿上ただ一人の被告ウイルホームの代表取締役であり、被告ウイルホームの代表者として本件訴訟を追行する者でもある。

被告二若が主張するとおり、被告二若は、平成六年二月以降は、被告谷口及び被告三辻に被告ウイルホームの経営を委ねており、被告ウイルホーム設立時に有していた被告ウイルホームの株式八〇株も被告谷口に譲渡していることは第三で認定したとおりであるが、被告二若は、①本件念書一において、代表取締役を自ら辞任することはしない旨約束し、平成六年二月二三日の株主総会、取締役会においても、改めて被告ウイルホームの代表取締役に就任することを承諾していること、②平成六年七月五日には、被告ウイルホームと建成システム株式会社との間の債務弁済公正証書(乙一九)の作成に被告ウイルホームの代表取締役として関与していること、③その後も被告ウイルホームが事実上倒産する頃まで、時々被告ウイルホームに顔を出しており、被告二若が登記簿上被告ウイルホームの代表取締役である限り、被告ウイルホームの締結する契約は、代表取締役被告二若名義で締結されることは十分知悉していたこと、以上の点を考慮すると、本件請負契約締結当時、被告二若は単なる名目的な代表取締役にすぎなかったということはできない。

そして、被告谷口も、被告三辻も、もともと被告二若の知人であり、被告二若が被告河村に紹介したものであることや、自らが締結した角田医院等工事請負契約に関するトラブルから、被告ウイルホームが多額の債務を負担しており、被告ウイルホームの経営状態は極めて厳しいことを知悉していたことも考慮すると、被告ウイルホームの代表取締役の地位にとどまっている限りは、被告二若には、被告谷口や被告三辻の行為を監視、監督し、その不正行為を防止すべき法的義務があったものというべきである。

被告二若は、建成システム株式会社との間の債務弁済公正証書の作成の事実を被告河村に報告し、被告二若の取締役登記の抹消を依頼したので、以後、被告ウイルホームの代表取締役は名実ともに被告谷口になった旨主張するが、本件念書一、二に基づく被告二若の義務は右公正証書作成にとどまるものではなく、右公正証書が作成されたからといって被告河村が被告二若の代表取締役辞任に応じるとは考えられないし、被告二若以外に被告ウイルホームの代表取締役はいないのであるから、代表取締役を辞任するのであれば、被告河村に取締役登記の抹消を依頼するだけでは足りず、取締役会を召集して正式に辞任しなければならない。

後記のとおり、被告谷口及び被告三辻は、被告ウイルホームの極度に悪化した経営状態から考えて、被告ウイルホームが本件請負契約に基づく工事を施工できる状態にはないことを知りながら、被告ウイルホームの資金繰りの逼迫を、本件請負契約に基づく前払金及び部分払金の入金により一時的にでも解消しようとして、あえて本件請負契約を締結し、原告らから前払金及び部分払金を受領して、原告らに損害を被らせたもので、被告谷口及び被告三辻も、商法二六六条の三第一項により原告らの損害を賠償すべき責任を負うが、被告二若も、被告ウイルホームの代表取締役として、被告谷口及び被告三辻に対する監視、監督義務を著しく怠ったものというべきであるから、その職務を行うにつき重大な過失があったものと認められるので、商法二六六条の三第一項により、本件請負契約の締結とそれに基づく前払金及び部分払金の支払により原告らが被った損害を賠償する責任がある。

3  被告谷口及び被告三辻の責任について

第三で認定したとおり、被告三辻は、被告ウイルホーム設立当初からの取締役であり、被告ウイルホームの株式二〇株を有する。専務取締役という名刺を使用することもあった。工事受注交渉を主として行い、本件請負契約締結にあたっても、原告千賀子と交渉したのは、主として被告三辻であった。

また、被告谷口は、平成六年二月四日ころ被告二若から被告ウイルホームの株式八〇株の譲渡を受け、同月二三日の株主総会で取締役に選任され、以後、被告ウイルホームの事実上の代表取締役として被告ウイルホームを経営してきた。登記簿上は被告二若が代表取締役であったが、被告谷口も、代表取締役という名刺を使用することもあった。

被告ウイルホームの経営状態は、角田医院等工事請負契約に関する未収金が生じたことなどから、第一期から八二三二万円余の損失を発生させ、第二期においては、損失は一億一五八二万円余に拡大し、平成七年一月からの第三期に入ってからは、下請業者に対する支払ができないだけではなく、被告ウイルホームの事業の拠点である本件展示場の出展料の支払もできない状態にまで逼迫しており、本件請負契約が締結された平成七年五月当時は、原告らからの入金があってやっと倒産を避けられるような状態で、原告らからの入金を原告らの自宅建築のために使用できるような状態にはまったくなかったのであるから、被告ウイルホームの取締役として被告ウイルホームの経営状態を知悉している被告谷口及び被告三辻は、原告らに損害を与えることのないように、原告らとの間の請負契約の締結を避けるべきであるのに、被告ウイルホームの資金繰りの逼迫を、本件請負契約に基づく前払金及び部分払金の入金により一時的にでも解消しようとして、あえて本件請負契約を締結し、原告らから前払金及び部分払金を受領して、原告らに損害を被らせたものであり、被告谷口及び被告三辻は、その職務を行うにつき重大な過失があったものと認められるので、商法二六六条の三第一項により、本件請負契約の締結とそれに基づく前払金及び部分払金の支払により原告らが被った損害を賠償する責任がある。

被告谷口及び被告三辻は、山本との契約が平成七年八月二五日成立の見込みであり、同日契約金一〇〇〇万円の入金が見込まれていたなど、本件請負契約締結時においても、部分払金一〇〇〇万円の支払を受けた時においても、被告ウイルホームには、必要資金調達の見込みがあったし、平成八年九月以降の資金調達についても、七名の見込客を有し、そのうちには八月末までに契約の成立、入金の見込めるものもあり、八月の資金調達を乗り切れば、事業の継続はもちろん、九月以降はむしろ明るい展望がある状況にあった旨主張するとともに、山本との契約が、山本の方向占いの結果延期されるに至り、突如資金繰りに狂いが生じ、被告河村に救援を求めたが、支援を得られず、被告ウイルホームは事実上倒産することになった旨主張し、被告谷口は右主張に副う供述をし、丁一号証から八号証まで(枝番を含む)、一〇号証には右主張に副うかと思えるものもあるが、甲九〇号証から九二号証までによれば、山本との契約の話も含めて、契約成立が確実であったものは何もなかったことが認められ、被告谷口及び被告三辻の右主張は理由がない。そもそも、被告ウイルホームが極端な経営難に陥ったのは、角田医院等工事請負契約に関する未収金や下請代金の問題を引きずっていたこともあるが、何と言っても受注がとれなかったことにあるのであり、平成五年一一月から平成七年八月までの間の受注が僅かに五件、平成七年に入っては原告らの一件のみという状態にあったものが、急に被告谷口及び被告三辻の主張するように多くの受注が見込める状態になったとは到底認めることができない。

4  被告ベストホーム、被告河村及び被告生田の責任について

(一)  被告河村の責任について

被告河村は、被告ウイルホームの相談役という名刺を使用していたものの、一度も被告ウイルホームの代表取締役あるいは取締役に就任したことがないことは、第三で認定したとおりであり、したがって、被告河村に対して商法二六六条の三第一項による責任を認めることはできない。

しかし、被告ベストホームの経営者である被告河村は、次のとおり、被告ウイルホームの実質的な経営者でもあった。

(1) 株式

被告ウイルホームの発行済株式総数六〇〇株のうち、二〇〇株を有するだけでなく、本件念書二で確認しているとおり、被告二若(後に被告谷口)及び被告三辻を除く株主は、被告河村の妻や被告ベストホームの取締役であり、その株主としての権利行使は被告河村に一任されていた。

(2) 運転資金

被告ウイルホームの運転資金の大半は、被告河村個人又は被告河村が経営するビーワン(被告ベストホームの子会社)が被告ウイルホームに貸し付けた。その総額は、被告河村が三一三〇万円、ビーワンが二五〇〇万円であり、被告ウイルホームが事実上倒産した時点で、被告河村の貸付金が二六五〇万円、ビーワンの貸付金が一七四万三七五三円残っていた(ビーワンの貸付金のうち、一五〇〇万円については、被告三辻が責任をとる形で、被告三辻の父親である三辻実が被告ウイルホームに貸し付け、これをビーワンへの返済に充てている)。

(3) 従業員

被告ウイルホームの設立当初は、被告二若が採用した従業員がいたが、被告谷口が経営することになってからは、被告谷口及び被告三辻以外は被告ベストホームからの出向社員で占められ、被告ウイルホームが事実上倒産するまでこの状態は変わらなかった(ただし、田村は後に被告ウイルホームのアルバイトとして採用された。)。

被告ベストホームと被告ウイルホームとの間には、被告ウイルホーム設立当初から本件出向契約及び本件業務提携契約が締結されており、被告ベストホームの出向社員や被告生田のような派遣社員によって被告ウイルホームの業務を遂行することが前提となっていた。

しかも、本件出向契約によると、被告ベストホームからの出向社員は、被告ウイルホームからではなく、被告ベストホームから給料の支払を受け、被告ウイルホームは、被告ベストホームに出向料を支払うことになっていた。

(4) 経営関与

被告ウイルホーム設立当初は、被告二若及び被告三辻がある程度独自の判断で被告ウイルホームの経営を行っていたが、角田医院等工事請負契約に関する問題が生じてからは、被告河村が前面に出て被告ウイルホームの経営に関与するようになった。本件念書一及び本件念書二は、あたかも従業員が会社経営者に対して差し出した念書のような内容になっており、特に、本件念書二では、被告ウイルホームと被告河村が同一視されている。

被告河村は、被告谷口が被告ウイルホームを経営するようになってからも、被告谷口には被告ウイルホームの経理を任せず、田村に被告ウイルホームの経理をさせ、田村が被告ウイルホームのアルバイトとして勤務するようになってからも、田村や被告生田から被告ウイルホームの経営内容について逐一報告を受けていた。

被告河村は、平成六年八月頃から被告ウイルホームの経営等に関する助言、指導等を中止しはじめ、同年一一月末日以降、被告ウイルホームの経営等に関して一切の関与をしなくなった旨主張するが、平成六年九月四日付けの指示書(甲五二)によれば、被告河村が被告ウイルホームの経営者として被告谷口らに指示をしていることは明らかであるし、被告三辻が平成七年八月五日に本件請負契約を成立させた販売報奨金として被告ウイルホームから一一万五〇〇〇円の支払を受けた(甲六〇)のは、本件念書一に基づくものであり、被告河村の承諾なしに右支払がなされることは考えられないから、被告河村の右主張は採用できない。

このように、被告ウイルホームの実質的経営者であった被告河村は、いつでも自らの判断で被告ウイルホームを整理することが可能であったのであるから(被告二若、被告谷口及び被告三辻が被告河村の意向に反して被告ウイルホームを存続させることができないことは、第三で認定した事実から明らかである。)、下請業者に対する支払ができないだけではなく、事業の拠点である本件展示場の出展料の支払もできない状態にまで逼迫した平成七年一月以降の被告ウイルホームの経営状態を考慮すれば、今後も被告ウイルホームに対する大幅な資金援助を続ける判断をしたのであれば格別、そうでない以上、顧客に不測の損害を被らせることがないように、被告ウイルホームの整理に入るか、少なくとも新たな請負契約の締結は差し控えるように被告谷口及び被告三辻に指示すべき義務があったものというべきである。

それにもかかわらず、被告河村は、被告谷口及び被告三辻が本件請負契約を締結し、原告らから前払金及び部分払金の支払を受けることを承認し、被告三辻に対して販売報奨金を支払うことまで認めたのであるから、被告河村は、民法七〇九条により、原告らが被った損害を賠償する責任があるものというべきである。

(二)  被告ベストホームの責任について

被告河村の被告ウイルホームの経営は、本件出向契約及び本件業務提携契約(被告ウイルホームは、工事を受注した場合、工事請負契約額の一〇パーセントを被告ベストホームに支払う約束があった。)の内容からも明らかなように、被告ベストホームの事業を東京に進出させることを目的とするものであり、右(一)記載の被告河村の不法行為は、原告ら主張のとおり、被告ベストホームの職務を行うについてなされたものというべきであり、被告ベストホームは、商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項により、原告らに対し、その損害を賠償する責任を負う。

(三)  被告生田の責任について

被告生田は、被告ベストホームの取締役であり、被告ウイルホームの株主でもあるが、被告ウイルホームの経営に実質的に関与したことはなく、被告ウイルホームにおける仕事も、設計について顧客の相談に応じ、設計図を作成するほか、見積書の内容の確認、工事現場の指導というものであったのであり、被告河村が上京しなくなってから、被告ベストホームの従業員として、被告谷口らと被告河村との間の連絡役は務めたものの、被告ウイルホームの経営について口出しできる立場にはなかったものと認められるから、原告ら主張のような不法行為責任を負うものとは認められない。

第六  結論

1  第五によれば、原告らに対し、被告ウイルホームは債務不履行による損害賠償責任を、被告二若、同谷口、同三辻は商法二六六条の三第一項による損害賠償責任を、被告河村は民法七〇九条による損害賠償責任を、被告ベストホームは商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項による損害賠償責任を、それぞれ負うが、被告生田は責任を負わないことになる。

2  そして、被告二若、同谷口、同三辻、同河村、同ベストホームが賠償すべき金額については、次のとおり認められる。

(一)  財産的損害二〇四二万円(原告それぞれに一〇二一万円)

(二)  弁護士費用 一〇〇万円(原告それぞれに五〇万円。本件訴訟の内容等を考慮)

原告らはこのほかに慰謝料を請求するが、財産的損害が填補される以上、慰謝料まで認めることはできない。

3  被告ウイルホームが賠償すべき金額は、2(一)の財産的損害のみである(その理由は、第五1記載のとおりであり、被告ウイルホームは債務不履行責任を争っていないので、この点からも弁護士費用を認めることはできない。)。

4  なお、2、3の賠償すべき金額については、訴状送達の日の翌日(被告ウイルホーム、被告二若及び被告谷口については、平成七年一一月一六日、被告三辻については同月一八日、被告ベストホーム及び被告河村については同月一七日)から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払義務がある。

5  よって、主文のとおり判決する。

(裁判官福田剛久)

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